『廓のおんな 金沢 名妓一代記』 文庫解説 by 井上 理津子

書評総合



廓のおんな: 金沢 名妓一代記 (新潮文庫)

作者:井上 雪
出版社:新潮社
発売日:2016-10-28











著者の井上雪さんは、地元・金沢を精緻に描くことで知られた作家だった。本書は金沢の「廓」という装置の中で精一杯がんばって生きた、1892(明治25)年生まれの山口きぬさんの生涯を描いたノンフィクションだ。 
廓の脇を流れる浅野川の緩やかな流れ、瓦屋根の低い家並み、夏は打ち水され、冬は粉雪を掃いた箒目が見える置屋や料理屋の玄関先、三味線の音色、艶やかな着物の芸者たち、背筋がすっと伸びたきぬさん……。まちの色もさんざめきも、人々の匂いも伝わってきて、明治の終わりから大正、昭和にかけての花街へタイムスリップさせられたが、何より見事なのは、そんないにしえの情緒に、心憂い廓のリアルがたっぷりと描きこまれていることだと思う。
廓が合法の時代である。金沢の「東の廓」に限ったことなのか、全国の廓がそうだったのに私が寡聞だったのか。きぬさんが暮らした廓には、驚くべき制度がいくつもあった。
一つは「二枚鑑札」つまり芸者と娼妓の二つの鑑札を合わせ持つ制度だ。一部の芸者が二枚鑑札を持っていたのではなく、芸者は前借金を早く返すために、おしなべて二枚鑑札を持っていたと読める。
能登の貧しい家に生まれたきぬさんは、1900(明治33)年、7歳で東の廓の置屋に身売りされる。反対する母親に「女郎にするわけんない。芸者にするがじゃ」と怒る父親は、二枚鑑札の〝常識〟を承

リンク元

コメント

タイトルとURLをコピーしました