『アダム・スミスの失敗―なぜ経済学にはモラルがないのか』(草思社) – 著者: ケネス・ラックス – 御厨 貴による書評

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『アダム・スミスの失敗―なぜ経済学にはモラルがないのか』(草思社)著者:ケネス・ラックス
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「利己心の肯定者」への異議
アダム・スミスは失敗をおかした。彼は次のように言っている。「私たちが日々食事を摂っているのは、肉屋や酒屋やパン屋の慈愛心によってではなく、彼ら自身の利害に対する彼らの関心によるものである」。今や我々はアダム・スミスがたった一言つけ加え忘れたことを知っている。――経済学の父アダム・スミスの「国富論」の再解釈をすすめる著者は、「アダム・スミスは次のように言うべきだったのだ」と続け、「慈愛心丶のみによってではなく」とひっくり返してみせる。著者によれば、「彼の思考のぎりぎりのところで、スミスは慈愛心を除外して利己心を擁護するという運命的な決断を下した」のである。これはシロウトの目から見ると、まことに大胆な、しかしとても魅力的な古典の再解釈ではないか。といって本書は、アダム・スミス一人を相手としたオタク的な本ではない。むしろ著者のまなざしは、中世末から現代に至る世界史的スケールにむけられ、アダム・スミスを利己心の肯定者と決めつけたことから、利己心の肯定がいかにその後の経済学を規定し、果てはその他の学問までも規定していったかを解き明かす。現代はアダム・スミス流の利己心を価値として、誰もが疑うことなくすりこまれてしまった時代に他ならない。だがかのスミスでさえ、利己心は正義によって抑制さるべきものと捉(とら)えていたではないか。このように著者は、従来の経済学が依拠してきた合理的かつ単純な人間観に異議申し立てを行う。利己心ではな

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