『ヴェルレーヌ伝』(水声社) – 著者: アンリ・トロワイヤ – 中条 省平による書評

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『ヴェルレーヌ伝』(水声社)著者:アンリ・トロワイヤ
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感動的な詩生んだ愚かな生涯 
ヴェルレーヌといえば、「秋の日のヴィオロンのためいきの」や「巷(ちまた)に雨の降る如く」という名訳が反射的に思いだされるせいで、やるせない感傷にふける旧世代の詩人というイメージがあるが、「なによりも音楽を」と歌った彼の身上は、月並みな感慨を軽やかな詩的メランコリーへと昇華させる音楽的魔術にあった。 だが、その清冽(せいれつ)な霊感の噴水は深い泥水の源泉から湧(わ)きだしていた。彼の詩は噴水、生活は泥水だった。癒やしがたい酒乱で、男色女色の両刀を刃こぼれするほど酷使し、ランボーと地獄の夫婦のごとき修羅場を演じ、母と妻の間で引き裂かれ、晩年は二人の娼婦(しょうふ)に引き裂かれた。そうかと思えば、フランス語を英語なまりで発音するという独創的な英語習得法を開発した変な先生でもあった。 ヴェルレーヌ伝には専門の学者の大著もあるが、正確さを追求するあまり無味乾燥な事実の列挙になりがちだ。だが、本書はフランスを代表する伝記作家の手になるものだけに、じつに読みやすく面白い。 これほど愚かな一生を送った男があんなにも繊細で感動的な言葉の旋律をつむぎだす。そこに人間精神の神秘がかいま見える。【初出メディア】朝日新聞 2006年8月06日朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名

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