『ホット・ロック』(角川書店) – 著者: ドナルド・E. ウエストレイク – 中野 翠による解説

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『ホット・ロック』(角川書店)著者:ドナルド・E. ウエストレイク
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知り合いの編集者Aは愉快なおしゃべり野郎で数かずの名言を残しているが、中でも私が気に入ったのは、「うちの会社、キレモノが居ませんがクセモノは多いですね」という発言だった。確かに。私は瞬間的にAの会社のいわゆる名物編集者数名を思い浮かべて笑った。そもそもA自身もそうとうクセモノ(曲者)である。そして私は画然と悟ったのだ。私は切れ者より曲者の方がずうっとずうっと好きなんだ、と。ドナルド・E・ウエストレイクのドートマンダー・シリーズの一番の魅力もまた、私にとっては「曲者の多彩さ」にある。主人公ドートマンダーを取り巻く常連登場人物から、ほんの一場面のみ登場の端役――一匹の犬に至るまで、人物の輪郭(見かけもパーソナリティも)が戯曲的に鮮明である。独得の癖や好みやルールを持った人びとである。愛すべき歪(ゆが)みを持った人びとである。シリーズ第一作のこの『ホット・ロック』にはタラブウォなる国の国連大使アイコー少佐が登場するが、この人は身上調査書に格別の偏愛を抱いている。ドートマンダー組の新顔二人を紹介された時の描写がおかしい。「アイコー少佐の心の一部は、この二つの名前をいとおしむように愛撫(あいぶ)しており、この会合が終わるのを待ちかねていた。この会合が終われば、二つの新しい身上調査書の作成を命じることができるからである」。身上調査書によって他人の生活をのぞき見て、将棋やチェスの駒を手にしたごとく、人の運命を掌握する喜び。いかにも権力者にふさわしい趣味である。さて。私もアイ

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