今橋 理子『江戸の動物画―近世美術と文化の考古学』(東京大学出版会)、手塚 治虫『手塚治虫のディズニー漫画 バンビ ピノキオ』(講談社) – 四方田 犬彦によるコラム

書評総合
人間は動物をどのように描いてきただろうか。ラスコーの洞窟に描かれた鹿や野牛を見ればわかるように、それは芸術の発生と本質的に関わっている。欧米では、17-18世紀にイギリスやオランダで描かれた狩猟画や獲物画から発展して、犬や馬の肖像画が人間並みにさかんに制作されるようになった。今日の野生動物を捕らえた写真集や環境保護を訴えるヴィデオアートは、動物とともに自然の風景を描こうとするこうした眼差しの延長にある。それに比べて東アジアでは動物画はまず、花鳥風月という美学的枠組みのなかで発展した。これは約束ごとの世界である。日本では半ば空想上の動物は、たとえば白象は普賢菩薩であり、白鹿は春日明神を示しているといったぐあいに、単純に宗教的教義と結びつけられて描かれてきた。今橋理子の『江戸の動物画』は、18世紀にいたってこの花鳥風月図に大きな変化が生じ、画家たちが従来の狭い約束ごとの表現を越えて、より自由で遊戯的な眼差しを採用するにいたったことを興味深く語っている。動物をめぐる象徴の意味づけ、擬人化、言葉遊びが作画の大きな動機として採用されることになった。たとえば18世紀の蘆雪に、子犬と髑髏、それに幽霊を並べた作品がある。一見すると訳のわからない絵なのだが、仏教では犬を煩悩と、また広く当時の社会が現世と冥界を行き来する動物と見なしていたことを考え合わせると、この絵の背後に中世以来の日本人の死生観、無常観が託されていることが判明する。今橋はこうした絵画をひとたび美術史から引き離し、博物学の文脈のなかで検討し直すことで、江戸人の想像的世界に新しい照明を投げかけている。
『江戸の動物画―近世美術と文

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