『琥珀のまたたき』(講談社) – 著者: 小川 洋子 – 蜂飼 耳による書評

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『琥珀のまたたき』(講談社)著者:小川 洋子
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脆くはかない人間の生の輝き
母が作り出した閉塞的な環境で、子どもたちはどのように生き、育つのか。小川洋子の長編小説『琥珀のまたたき』は、その環境での日々とやがて訪れる崩壊を、何かを糾弾する視点からは離れた方法によって描く。四人の子どものうち、妹が病で命を落とす。それを機に母は引っ越しを決意する。行き先は、父が残した別荘。母のアイデアで、子どもたちは『こども理科図鑑』のページを指さして自分の新たな名前を決める。三人はオパール、琥珀、瑪瑙(めのう)となる。「壁の外には出られません」。母の決めたルールは他にもある。小さな声で話すことなどだ。子どもたちが母に逆らわないのは、妹の死という衝撃を共有しているからでもある。外界からほとんど遮断された場でも、遊びは次々と編み出され、物語が生まれる。どんなに閉じられている場にも、想像の自由はある。庭の雑草を食べるために連れて来られるロバのボイラー。自転車に品物を積んで訪れるよろず屋ジョー。外の空気を運び入れるものにも触れて、子どもたちはそれぞれ成長する。最初は完璧な均衡を見せていたかのような環境が、少しずつ綻(ほころ)びる。いつまでも子どもたちと閉じこもっていたい。そんな母の願望は、打ち砕かれる。この小説は、アンバー氏と呼ばれる晩年の琥珀の姿も捉える。「芸術の館」に暮らす氏は、図鑑の片隅に描いた絵を「一瞬の展覧会」として人々に見せる。それは家族との過去を思い起こさせるものであり、氏にとって、とても大切な営みだ。氏は自らを琥珀に閉じ込めているのだろう。

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