『爪と目』(新潮社) – 著者: 藤野 可織 – 小野 正嗣による書評

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『爪と目』(新潮社)著者:藤野 可織
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「あなた」が気づかない欲望
人体を覆う表皮のうち特別な存在が二つある。爪と目である。前者は自由な両手の指先を保護し、後者からは外界の情報の8割以上が入る。 かくも重要だからこそマスカラやマニキュアで飾り立てねばならぬし、「爪を剥(は)ぐ」「目を潰す」というように人間を傷つけ損ねる残虐性の特権的な標的ともなるのだ。 この二つの部位に、疑似家族の母と娘を重ね合わせた表題作の着眼点は見事である。 語り手の「わたし」は、三歳のときに経験した出来事を回想する。ある日、実の母が謎の死をとげる。すると、父は母の存命中から不倫をしていた若い女性「あなた」を家に迎え入れるのである。 「わたし」は「あなた」という家庭内に混入した異物へのストレスからか、爪をしきりに噛(か)むようになる。一方、極度の近視の「あなた」は、そのせいでもあるまいが、対象との距離の取り方がいびつである。目に入れたコンタクトレンズが遮蔽(しゃへい)膜であるかのように、恋愛にせよ、親子・友人関係にせよ、すべてが表層的で実のある像が結ばれることがない。 その「あなた」が、「わたし」の実母が日常を綴ったブログを発見してから変わる。そこに、そして同種のブログに表明された女たちの「固定化された欲望」に憑(つ)かれ、それを模倣し始める。ネットで北欧家具を注文し、健康によい食材を買い、室内を美しく見せる収納術を学ぶ。外国の絵本を部屋に飾り、「わたし」の実母の欲しがっていた観葉植物をリビングに置く。 なるほど、我々の欲望とはみな他者の欲望なのだ。こうして

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