『涙の詩学―王朝文化の詩的言語―』(名古屋大学出版会) – 著者: ツベタナ・クリステワ – 山折 哲雄による書評

書評総合

『涙の詩学―王朝文化の詩的言語―』(名古屋大学出版会)著者:ツベタナ・クリステワ
Amazon |
honto |
その他の書店
小町の袖濡らす歌ことば
平安の貴族たちが流していた涙は、どうやら古代万葉人が流した涙とは性格を異にしているようだ。日常生活で流されていた涙は別として、とりわけ和歌や物語のなかで平安の貴族たちが流していた涙は、万葉人の場合とはかなり違っていたのではないか。自然の涙と歌ことばの涙、その違いである。そう主張したのがブルガリア出身の日本研究者・ツベタナ・クリステワさんだ。モスクワ大学の日本文学科を卒業し、鎌倉時代の特異な物語「とはずがたり」のブルガリア語訳で文学博士をとった女性である。そのクリステワさんが昨年、日本語で『涙の詩学』(名古屋大学出版会)という書物を出版して学界を驚かせた。もちろん私も大いに驚いた一人である。現在は東京大学大学院の客員教授をしていられる。[※2021年現在、国際基督教大学名誉教授] ▽ ▽「とはずがたり」のブルガリア語訳を出したとき、多くの読者の関心をひいたのが、そこによく出てくる「袖の涙」という表現だったという。昔の日本人は女も男も、いったいどうしてそんなに絶えまなく涙を流していたのか、という疑問がつぎつぎと寄せられた。お化粧していたらしいのに、大丈夫だったのか。いくら濡れても濡れきらないあの袖は、タオルのような生地でできていたのか。それらの疑問に答えるために、クリステワさんのつぎへの研究がはじまった。古今集を手はじめに新古今集にいたる勅撰和歌集をしらべあげ、「袖の涙」にかんする千変万化の事例を数えあげていく。それらを多彩な

リンク元

コメント

タイトルとURLをコピーしました