『日本近代史学事始め―一歴史家の回想』(岩波書店) – 著者: 大久保 利謙 – 御厨 貴による書評

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『日本近代史学事始め―一歴史家の回想』(岩波書店)著者:大久保 利謙
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華族社会を活写した回顧談
天皇のことを「天ちゃん」と、身内意識があるからこそあえて呼べる華族独得の世界がある。侍気分をもっている反面、バタくさくて欧米に対する信頼感をもって生活している開明官僚の世界がある。戦時中に治外法権であった華族会館を駆使して、明治憲法制定過程を研究する自由のある学者エリートと華族を包む世界がある。 これらの世界はいずれも今日、歴史の彼方に消え去ろうとしている。維新の元勲大久保利通を祖父にもち、自ら日本近代史学の父祖となった著者が、自由闊達(かったつ)に語った回顧談の面白さは、歴史の帳(とばり)の中から知る人ぞ知る閉じられた世界の姿を、それこそきのう今日のことのように生き生きと語っている点にある。 しかもこの回顧談は、よくありがちな与太話に堕していない。計算された脱線はあるものの、全体を著者自身の人生に即して五章立てにきちんと整理し、言うべきは言う姿勢を崩していない。幼くしてサロンのような邸宅で荒木貞夫にかわいがられ、学習院では乃木希典の自刃にショックをうけ、鈴木大拙に英語を習い、白樺派文学青年としてすごした日々。そして河上肇にひかれて京大経済学部に行き、東大国史学科に転ずる。三上参次、黒板勝美、辻善之助、平泉澄(きよし)、村上直次郎といったスタッフを揃(そろ)えた国史学科は、著者によれば「官学アカデミズムのいちばんいい時期」にあたっていた。 著者の近代史学は、帝国大学史の編纂(へんさん)に始まり、明治文化研究会と尾佐竹猛(おさたけたけ

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