「ワカタケル」

小説の書評と感想
◆2021年7月22日「ワカタケル」(日本経済新聞出版社)池澤夏樹学生の時、近鉄で奈良を日帰り旅行した際、左手に三輪山を見ながら朝倉を通り、長谷寺に行きました。長谷(初瀬)、朝倉は、第21代雄略天皇が都を置いた場所です。ちょうどその頃古事記を読んでいたり、万葉集を学校で教わったりしていたので、このあたりがあの時代、都だったところかと思ったことでした。本書の主人公はワカタケル、すなわち泊瀬幼武天皇こと雄略天皇です。先王の死後、彼は兄と従兄を殺害して、自らが王となります。古くからの豪族たちとともに渡来人を重用して国を発展させます。また外国に使者を送ったり百済、任那を通じて干渉したりもしています。本書では大后ワカクサカ、巫女イトら女性の霊力で神の声を聞き、さらに祖先の神々の力を借りながら大王に登りつめ、時を経て倭の国力とともに衰退していくワカタケルが描かれます。神話やアミニズムが人々の生活と近しかった時代の空気が感じられます。文字の力についてワカタケルとワカクサカが議論する場面があります。かの稲荷山古墳の鉄剣を下賜するくだりから文字の話になり、歌が文字にすることで後世に残ることに関してワカクサカが「歌とは場の声、響きであり、文字にすることで人と人とが隔てられ、神との距離が遠くなる気がする」ともらします。これに対しワカタケルは、国は文字により成立しており、氏姓を規定し、大王や国の権威を形作るのは文字なのだと答えます。国家の揺籃期の、他国からの文化受容に関する葛藤が描かれています。そしてこのことが、最終章で天照大神や卑弥呼を例に出しながらワカクサカが語る、男女の国家観、国のあるべき姿につ

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