『奇想の系譜』(筑摩書房) – 著者: 辻 惟雄 – 種村 季弘による書評

書評総合

『奇想の系譜』(筑摩書房) 著者:辻 惟雄
日本のマニエリスムの展望
私事に亘るが、かつてG・R・ホッケの『迷宮としての世界』を翻訳していたとき、西欧の隠された鉱脈のなかからつぎつぎに発掘されてくる目も綾な金属の輝きになかば眩惑されながら、私は一方で、心ひそかに、わが国の伝統のなかにもかかる隠された鉱脈に似た秘宝が埋蔵されているにちがいないし、またそれを採掘し収集する前人未踏の冒険は、あまたの波瀾をふくみながらもさぞかし興味津々たる壮挙であろうと想像していた。このような期待は、しかしむろん私一個の伝統芸術や民俗に関するきわめて限られた知識、というよりは端的に無知のしからしめる誤解に発するもので、篤実な奇想絵画研究家たちがとうから報われることのすくない地道な研究を着々と営んでいた形跡は、本書末尾の文献解題からも如実に見てとることができる。また私の期待のほうも、それはそれなりに、ほどなくして精力的に公にされた広末保氏の絵金に関する研究、鈴木重三氏の国芳をはじめとする幕末版画研究、高橋徹氏の英泉に関するエッセイなどによって部分的にかなえられはしたのである。だが、なによりも待ち望まれていたのは、奇想面の神統系譜学がこれらのすぐれた個別研究の間にパノラミックな展望をもって定立されることであった。辻惟雄氏の『奇想の系譜』は、その意味で私にとってまさに出現すべくして出現した待望の書であった。マニエリストなら concetto と名づけたにちがいない奇想画に執着しつづけた六人の特異な画家の作品と生涯が、戦国末期の血なまぐさい動乱の記憶に終生つきまとわれた画家岩佐又兵衛から、ようやく明治維新の

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