『センチメンタルな旅』(河出書房新社) – 著者: 荒木経惟 – 大竹 昭子による書評

書評総合

『センチメンタルな旅』(河出書房新社) 著者:荒木経惟
「嘘」なく心の震え留めた
いつもはアジアの古美術展が多いパリのギメ東洋美術館で、荒木経惟の写真展が9月5日まで開催中だ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年)。熱烈なファンであるキュレーターの企画らしい。世界が注目する現代日本の小説家が村上春樹なら、写真家では荒木経惟だろう。しかも本人は日本をほとんど出ないときている。カメラを向けるのは、日本にいる人、日本の情景、身辺にあるものだ。身近なものを撮ればいいというのは、彼のデビュー当初からの考えだが、それが高らかに宣言された伝説的な写真集が復刻された。内容は妻陽子との新婚旅行だ。列車で移動し、ホテルに泊まり、翌朝起きて、町に出て観光をする。その過程が順番通りに登場する、と言うとどこの家庭にもある新婚アルバムのようだが、決定的にちがう点が二つある。一つは性交シーンがあること(コトの真っ最中にシャッターを切るというアクロバットをやっている!)、もう一つは陽子がどの写真でも浮かぬ顔をしていることだ。東京で初公開中の密着プリントで全カットを調べても笑顔は見当たらない。手書きの巻頭文には、「これはそこいらの嘘写真とはちがいます」とある。ここで彼が指す「嘘」とはファッション写真だが、思えば世間一般の新婚写真にも「嘘っぽい」ところがありはしないか。新婚夫婦が抱くのは幸福感だけでなく、それと同じ量の不安――家庭生活はうまくいくのか、この人でよかったのか、相手に見合った自分なのか――があるはずなのに、幸せだけが強調される。メインイベントのひとつ、性交が出てこないのは言うま

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