『ヨットクラブ』(晶文社) – 著者: デイヴィッド イーリイ – 豊崎 由美による書評

書評総合

『ヨットクラブ』(晶文社) 著者:デイヴィッド イーリイ
CSのミステリチャンネルという局の番組「ベストブックス」に出演しているのですが(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2004年)、そこで二〇〇三年海外編の第一位に輝いたのがデイヴィッド・イーリイの短篇集『ヨットクラブ』。ミステリー、SF、怪奇、幻想と、多彩にして不思議な読み心地が十五篇も楽しめる逸品なのです。人生に倦(う)んでしまったVIPな男たちのひそやかにして罪深い愉しみを描いて不気味な表題作。互いの存在を無視し続けている家庭内別居夫妻の始めた意地悪なゲームが、ついに超自然的な恐怖を呼び込んでしまう「夜の客」。善意がどれほど怖ろしい抑圧になりうるかを描いて気味が悪い「隣人たち」などなど。なかでも素晴らしい一篇が「タイムアウト」です。主人公はイギリスに憧れているガル教授。研究休暇をロンドンで過ごす手筈を整えたのだが、出立当日に北極で原子力事故が起こり、全世界的に貿易と旅行が凍結されてしまいます。が、それから二年後、ガル教授はアメリカ政府が派遣するイギリスの人文科学的調査メンバーに選ばれ、念願の渡英を果たすのです。ところが原子力事故が起こったのは、実はイギリス。全世界に内緒のまま、イギリスを以前どおりに復興させる。過去ばかりか、復興工事が行われている期間の歴史をも創造する。それがガル教授らに課せられた使命だったのです。ところが、イギリスと歴史学を愛するガル教授には納得できない。そんなインチキな代物には意味がないっ! かくして、計画を失敗させようと意気込むのだが――。わずか六五ぺージの物語の中に、歴史とは何か

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