『贖罪』(新潮社) – 著者: イアン・マキューアン – 豊崎 由美による書評

書評総合

『贖罪』(新潮社) 著者:イアン・マキューアン
一人の少女がついたひとつの嘘。それが、ひと組の若いカップルの人生を狂わせていく――。『アムステルダム』でブッカー賞を受賞した、英文学界を代表する作家イアン・マキューアンが、その三年後に書き上げた大河小説は、罪を贖うことの可能・不可能性を深く追求する容赦ない傑作だ。物語はマンスフィールドの『園遊会』を思わせる、のどかな情景から幕をあける。一九三五年夏、十三歳の少女ブライオニー・タリスは休暇で帰省してくる兄とその友人を、自作の芝居で迎えるべく朝から大忙し。両親の破局が原因でタリス家に預けられた従姉弟(十五歳のローラと九歳の双子の兄弟)を巻き込みながら、しかし、準備は遅々として進まない。一方、大学は卒業したものの、身の振り方が定まらない姉のセシーリアは、自分をこの退屈な家に引き留めているものの正体がわからず鬱屈した心を抱え込んでいた。しかし、やがてそれは明らかになる。使用人の息子で幼なじみのロビーの存在。ぎこちない会話と小さな諍いを経て、二人は互いの気持ちを確かめあう。ところが晩餐の後、家出してしまった双子を探している最中に、ローラが強姦されるという事件が発生。幾つかの誤解を通してロビーに敵意を抱いていたブライオニーは、勢い込んで告発する。犯人はロビーだ、と。ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』のように、たった一日の出来事を描き尽くし、美しくも残酷な余韻を残す第一部。しかし、人生は続くのだ。「人間の精神に入りこんで、その働きを、そして外界からの働きかけを言葉に表わすこと、それも幾何学的バランスの取れた形式で表現すること」という、後

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