『冷めない紅茶』(福武書店) – 著者: 小川 洋子 – 俵 万智による書評

書評総合

『冷めない紅茶』(福武書店) 著者:小川 洋子
『冷めない紅茶』は、小川洋子作品のなかでも、特に好きな一編だ。友人の死というショッキングな事件から話は始まっているけれど、それはほんの入口であって、あとは淡々とした物語が続いている。友人のお葬式で再会した同級生のK君。主人公の「わたし」は、以後、たびたび彼の家を訪れることになる。出迎えてくれるのは、K君と彼の美しい妻。穏やかであたたかで懐かしいような時間が、いつも「わたし」を包んでくれる。「わたし」にはサトウという同居人がいて、彼との生活とK君宅での時間は、まるで異質なものだ。サトウとのあいだには、典型的な日常が流れている。大口を開けて虫歯を見せたり、ささいなことでケンカをしたり、というような。こっちが日常なら、あっちは非日常なんだ――と気づくまで、私にはずいぶん時間がかかった。読むたびに不思議な気分を味わってはいたけれど。そして不審に思う点もないではなかったけれど。K君と妻の住んでいるところは死者の世界なのだ、と明確に教えられたのは、文庫本に寄せられた加藤典洋氏の解説によってだった。そういう目で読みかえすと、なにもかもつじつまが合ってしまう。そういうつもりで書かれたものなのだろうから、あたりまえと言えばあたりまえのことなのだろうけれど、なんだか少し残念な気もした。「これは現実のできごとではなく、死者との交歓なのだ」というのは、一般的に考えればまことに不思議な設定だ。が、その不思議な設定を認めたとたん、作品の不思議さが消えてしまう。一生懸命、ありのままのこととして読もうとしていた自分が感じていた、妙な味わい。それは、やはり大切に

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