『ディフェンス』(河出書房新社) – 著者: ウラジーミル・ナボコフ – 豊崎 由美による書評

書評総合

『ディフェンス』(河出書房新社) 著者:ウラジーミル・ナボコフ
ゲームの王様って一体なんだろう。日本人なら囲碁とか将棋とか答えそうだけれど、西洋人にとってのそれはチェスに違いない。ロシア生まれにもかかわらず、英語で小説を書いたことで知られる亡命作家ナボコフが、まだ母語で作品を発表していた時代に書かれた初期の傑作の主人公が、そのチェスの天才だ。作家の息子として生まれたルージンが、気難しい子供時代を経て、チェスと出会い、プロの選手として世界を転戦し、美しく優しい伴侶を得ながらも、狂気のうちに自殺してしまう――。とは書いたものの、素晴らしい小説が常にそうであるように、これもまたそんな粗筋紹介がほとんど何の意味も持たないディテール命の作品なのだ。
彼が求めている秘密は単純なもの、調和のとれた単純さであり、それこそがこの上なく精密にできた魔法よりもはるかに人を驚かせることができるのだ。
チェスに出会う前、手品に魅入られたルージンの内なる声を綴ったこの文章は、同時にナボコフの小説作法も物語っているような気がしてならない。ある章で描かれたディテールが別の章で起きる出来事の細部と呼応しあったり、ある人物の行為が見えないところで別の人物の行動に影響を与えたりと、作品の構造全体をチェスという知的ゲームの手筋に重ねた『ディフェンス』は、あらゆるところにナボコフの文学理論が行き渡っている非常に理知的な小説なのだ。にもかかわらず、読む者に「難解」という苦痛を与えることがない。読者は、ルージンという類(たぐい)まれなる変人の生涯に惹かれて読み進めるだけでいい。なんせもう、その奇矯さときたら! チェスに不

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