『天下取』(光文社) – 著者: 村木 嵐 – 本郷 和人による書評

書評総合

『天下取』(光文社) 著者:村木 嵐
動乱の世の苦しみに耐え、強く静かに生き抜いた
甲斐は山間の国である。戦国時代の石高は20万石ほど。山の恵みがあって金も採掘されたが、尾張や美濃で60万石の米が取れたことと比べると、豊かな生産力を誇るとは言えまい。また、海をもたぬので、交易が思うようではない。街道を封鎖されたら、まずは塩の欠乏で干上がってしまう。戦国時代、この地を守っていたのが武田信玄だった。彼は信濃を占拠し、西上野を取り、駿河に進出して念願の港を得た。かくて100万石をこえる武田領を築き、徳川家康を圧倒した。この優秀な戦国大名が勢力拡大を旨とする「侵略マシーン」だったのか、甲斐を盤石にするためにこそ他国に出兵したのかは意見が分かれる。「侵略すること火の如(ごと)し」で普通は前者と捉えられるが、一生のあいだ、本拠を甲府から動かさなかったのだから後者の可能性もあるな、とぼくは最近思い直している。本書はその信玄の妻や娘たちを描く。武田家はいっとき関東の北条家、東海の今川家と同盟を結んだ。約束を守る強制力として、二重三重に婚姻が結ばれた。だが、今川義元が桶狭間で敗れて領国に綻(ほころ)びが生じると、信玄は約束を破棄して駿河に攻め込んだ。つかの間の小康が終息し、さらには義元を討った織田信長の台頭と信玄の病没により、武田家自体も滅びていく。夫や子どもとの別れ。生家、婚家の滅亡。武田の女性たちは塗炭の苦しみをなめることとなる。このときに彼女たちはどう苦難と向き合ったか。それが本書のテーマである。ただ泣くばかりか。父や夫を恨んで日を送ったか。とんでもない。静かに苦しみと戦いながら、もちろ

リンク元

コメント

タイトルとURLをコピーしました