『新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨』(講談社) – 著者: 吉村 昭 – 御厨 貴による書評

書評総合

『新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨 』(講談社) 著者:吉村 昭
幕吏の息づかいを鮮やかに
幕末において勘定奉行や海防係をつとめ、幕吏としては異例の出世をとげた川路聖謨(かわじとしあきら)。彼は出世スゴロク上最高の地位とも言うべき勝手方勘定奉行の首座になった時、次のような自戒の言を記している。「御役威に、なづむべからず。金銭になづむこと素(もと)よりあるべからず。縦令(たとえ)今死候とも、正理を踏可申事」 また同時に川路は、最高の地位に就いたからには将来の左遷もありうるとし、その際の身の処し方を覚悟している。事実後に将軍後継問題をめぐって、紀州派の大老井伊直弼によって一橋派として左遷された時、川路は実に冷静沈着に自らの処分をうけとめた。 確かに今問題とされている官僚の生き様を、歴史に投影した小説として話題性にはこと欠かない。さらに本書の四分三を占める川路とロシアの使節プチャーチンとの嘉永六年から翌年にかけての開国をめぐる交渉過程それ自体が、現在も始終行われている国家レベルのあるいは企業レベルの様々な交渉過程に即座にオーバーラップされる。しかもそのことにより、実に生々しい駆け引きの場面を含めて、川路たちの交渉に臨む際の息づかいがはっきりと聞こえてくる。圧倒的な軍事力の差を感じながら、プチャーチンとの交渉をくり返す川路の識見と判断力は見あげたものと言わざるをえない。 同時に川路を始め、阿部正弘、徳川斉昭、堀田正睦、井伊直弼といった幕閣の輪郭が、是非は問わずはっきりとしていることに気づく。たとえ進歩的であれ保守的であれ、自己の意見形成に皆意欲的だ。 そんな川路の家庭生活に及んで、

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