『監獄裏の詩人たち』(新潮社) – 著者: 伊藤 信吉 – 森 まゆみによる書評

書評総合

『監獄裏の詩人たち』(新潮社) 著者:伊藤 信吉
監獄の見てきたもの
二年ほどまえ、前橋に行った(ALLREVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1997年)。詩人伊藤信吉氏の展覧会と講演会が喚乎(かんこ)堂という書店で開かれる。喚乎堂はかつて「赤と黒」の詩人萩原恭次郎がつとめていた。彼のかかわった白山南天堂を調査している私はそれだけで行きたくなった。大阪の詩人寺島珠雄氏にお供して行くことにした。前橋は詩人を多く生んだ土地である。喚乎堂は予想外に大きな本屋だった。数階建てのビルで品揃えにも気が入っているし、小さくとも立派なホールを持っていることに、この土地の文化への構えが見てとれる。盛況で、そのあとの懇親会でも、参加者は伊藤さんとは直接縁のない私を許容して下さった。みんなが九十を越える、髪がふさふさと白い詩人を心から敬愛しながら、それぞれ勝手に楽しんでいる会の雰囲気がなごやかだった。翌日、同行の詩人向井孝氏が前橋カンゴク、いまの前橋刑務所を見に行こうといい出した。それは赤レンガの壮大な建物だった。日本的スケールをはるかに超える、バロック的空間であった。門から中をのぞいていると看守が飛んできて無表情にここは立入禁止です、といった。私は前にある店で、囚人が作業で作ったという小さなテーブルぼうきを買った。その刷毛のようなほうきは、仕事机の消しゴムのかすを掃くのに毎日使う。使うたびに前橋カンゴクを思い出していたら伊藤信吉『監獄裏の詩人たち』(新潮社)が刊行された。 “信吉つぁん”(とあの会の人たちは発音した)は元気だなあ。三十数年間、この監獄に興味を持ちつづけ、

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