『レイシズム』(講談社) – 著者: ルース・ベネディクト – 山崎 正和による書評

書評総合

『レイシズム』(講談社) 著者:ルース・ベネディクト
意識的な差別を拒絶した後に
左利きのための鋏が発売されたのは、二十世紀も半ばのことであった。私の幼年期、親も学校も左利きの子を右利きに矯正する教育に励んでいた。私は眺めていただけだが、今の基準ではあれは無意識の差別だった。1940年、世界はきわめて意識的な差別感情に襲われ、差別をめぐる大戦の渦中に脅えていた。新しい差別の口実は「人種(レイス)」と呼ばれ、十九世紀末に遡(さかのぼ)る似非科学を根拠としていた。従来の宗教的異端、階層差や言語、風俗にもとづく差別とは異なり、人種は肌の色や頭蓋骨の形態など遺伝形質に注目する点で、差別はかつてなく宿命的な重みを増すことになった。著者はこの時期に本書の筆を執り、人種差別の無根拠を暴き、欺瞞に反対する史上最初の人となった。当然、筆法は論争的となり、ナチスの掲げる「アーリア人種」が虚構にすぎず、歴史的にも人類学的にも破廉恥な嘘であることが暴露される。ユダヤ人迫害が異教排斥でも異文化排除でもなく、じつは殺害を伴う財産強奪にすぎなかったことも告発される。第二次大戦の勃発はその前年だから、著者の主張は結果として、連合軍の対独開戦の理論的根拠、宣戦の理念の表明にもなっている。だがその後の著者の本旨を辿ってゆくと、やがて人種差別はナチズムのような世界観ではなく、もっと曖昧な因襲に根ざして芽生えた悪徳だったことがわかる。古典といえるゴビノーの『人種不平等論』も、未来社会への展望を欠いた、凋落貴族の憤懣の吐露にすぎなかった。肌の色で差別された最初の人種はアメリカ先住民だが、迫害した英国系白人には人種差別

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