『おちび』(東京創元社) – 著者: エドワード・ケアリー – 養老 孟司による書評

書評総合

『おちび』(東京創元社) 著者:エドワード・ケアリー
マダム・タッソーと若き解剖医の生涯
じつは予備知識なし、なにも知らずに、六百ページに近いこの分厚い本を読み始めた。ちょっとした冒険の気分とでもいうべきか。前半をかなり読み進んでもまだ気が付かない。最後の方でやっと、ロンドンの蠟人形館で有名な、マダム・タッソーの伝記文学だと気が付いた。最近は読み始める前に、その作品について、さまざまな情報を受け取ってしまう。それがない方が作品によっては面白い。その意味で、書評はあらかじめ読むものか、読了してから読むものか、あらためて考えてしまった。主人公の「おちび(ザ・リットル)」、本名アンネ・マリー・グロショルツは、一七六一年、フランスの寒村に生まれる。間もなく復員軍人だった父を失い、母は下働きの職を求めてスイスのベルンに移る。そこで奉公したのが、まだ青年とも言うべき若い解剖医フィリップ・クルティウスの家だった。これが運命の出会いとなる。クルティウスの仕事は、病院からもたらされたさまざまなヒトの器官を、蠟細工の模型にすることである。こうした模型は医師の勉強の手段になり、患者への説明の材料ともなる。当時の欧州では、この蠟模型がいわば流行し、本拠はフィレンツェにあった。ここから多くの職人が欧州各地に派遣され、技術を伝えた。フィレンツェの通称スペコラ、フィレンツェ大学比較解剖学博物館には当時からの蠟模型が保存され、いまなお展示されている。まもなく「おちび」の母は首を吊り、「おちび」はクルティウスと二人暮らしになってしまう。クルティウスはふとした思い付きで「おちび」の顔の模型を作る。やがて病院の医

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