『The Lyrics 1961-1973』(岩波書店) – 著者: ボブ・ディラン – 沼野 充義による書評

書評総合

『The Lyrics 1961-1973』(岩波書店) 著者:ボブ・ディラン
『The Lyrics 1974-2012』(岩波書店) 著者:ボブ・ディラン
ディランと背景に密着した究極の訳
二〇一六年十月、ノーベル文学賞受賞者が発表されたとき、ある新聞社の会議室でその時を待っていた、私を含む何人もの人々の口から思わず「おおっ!」という驚きとも、感動ともつかないどよめきが洩れた。ボブ・ディランというまったく予期していなかった選考結果だったのだが、その名前を聞いたとき、私は一瞬のうちに「素晴らしい!」と納得もしたのだった。ボブ・ディランは、言うまでもなく、二〇世紀後半のアメリカが生み出した、もっとも影響力の大きな歌手である。一九六〇年代初頭から活躍を始め、アメリカの社会派フォーク・ソングやブルースの影響から出発しながら、エレキギターを使用したロックに転身した。ユダヤ人の出自でありながら突如キリスト教福音派に改宗して、初期の社会的プロテストの歌から一転して宗教色の濃い歌を作った。こんなふうに彼は半世紀以上にわたって様々な変容をとげながらも一人のボブ・ディランであり続け、歌手として生涯現役を貫いてきた。誰もが認めることだが、ポピュラー音楽の領域では、二〇世紀後半の世界を席巻した二つのBがあった。ビートルズとボブ・ディランである。その「歌手」にノーベル文学賞が授与されたのだから、世界中が驚いた。しかし、ディランは単なる歌手ではない。自らの歌詞とパフォーマンスを、渾然(こんぜん)と溶け合わせた「ソング」として示す存在だった。授賞理由も、「偉大なアメリカの歌の伝統の中に新たな詩的表

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