『日中戦後外交秘史 1954年の奇跡』(新潮社) – 著者: 加藤 徹 – 張 競による書評

書評総合

『日中戦後外交秘史 1954年の奇跡』(新潮社) 著者:加藤 徹
中立的な立場から束の間の友情を描く
終戦直後、日本が直面していた大きな問題の一つは海外邦人の引き揚げである。中国に取り残された日本人の大半は、蔣介石の中華民国政府の協力で帰国を成し遂げた。しかし、国共対立とそれに続く内戦により、まだ多く取り残されていた。大陸を掌握した共産党中国とは外交関係を樹立していなかったため、邦人の引き揚げは中止を余儀なくされ、戦後復興期を迎えても、なお進展がないままであった。一九五三年の春、状況が大きく動き出した。三月中旬、四九三七人を乗せた第一次帰国船が京都の舞鶴港に到着し、その後、帰国者は次々と日本に戻ってきた。山を動かしたのは、中国の赤十字会長を務める李徳全という女性である。クリスチャンである彼女は衛生部長(厚生大臣)を兼務しており、官民両方の顔を持っている。翌五四年、彼女は大きな手土産を持って日本を訪れた。戦犯リストを公表し、全員を帰国させる意思を表明して朝野を驚かせた。近代史の一幕として、これまでも断片的に言及されてきたが、本書は日中双方の史料を駆使し、わかりやすい言葉でその顚末と舞台裏のすべてを再現してくれた。学問としての外交史研究は史料の発見、収集と検証が主要な方法で、史料の吟味と批判は不可欠な手続きである。その半面、当事者たちの心情や人柄がどのように歴史に影を落としたかについてはほとんど語らない。書名の「秘史」が示唆した通り、著者が着目したのは過去が持つ「物語」としての側面である。表舞台での動きを通して、歴史を動かす人たちの意図と気持ちを捉えようとしている。国際社会で起き

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