『椿井文書―日本最大級の偽文書』(中央公論新社) – 著者: 馬部 隆弘 – 磯田 道史による書評

書評総合

『椿井文書―日本最大級の偽文書』(中央公論新社) 著者:馬部 隆弘
見抜けなかった失敗から何を学ぶか
本書は「日本最大級の偽文書」の物語である。日本最大級とは「その被害規模と根深さが」という意味。偽物にも比較的「無害な」ものと有害なものがある。例えば「東日流外(つがるそと)三郡誌」や「竹内文献」は偽作と本書はいうが、これら近現代にひろまった「超古代史」モノは実害が少ない。歴史学者もちゃんと「作品だ」とわかっていて相手にせず、行政も教育や観光誘致に利用しないからである。しかし、江戸時代に創作された古文書(偽文書)は厄介である。江戸後期から幕末にかけて、歴史ファンが偽系図師としても活躍し、武将の偽書状も大量に作った。日本中で古文書調査をした経験では、滋賀と山梨で、偽文書を多くみた。江戸時代産の偽文書は捏造でも二百年物の古文書。大学教授や自治体の文化財担当も偽物と見抜けず、これをもとに市町村史を書いてしまうこともある。偽文書にはイエやムラに都合のよい「由緒」が記されている。観光地や文化の香りが欲しい自治体は無邪気にこれを利用。遺跡でない場所が遺跡になり、看板や記念碑が建つ。全く気の毒な話である。事実、そうなってしまった偽の文書群が「椿井文書」である。現在の京都府木津川市山城町椿井地区に生まれた椿井政隆(1770-1837年)が、江戸後期にせっせと制作したとされる文書・絵図・系図・由緒書の類である。第二次大戦前から心得のある歴史研究者はその存在に気が付いていた。私も、京都帝大で古文書学を担当した中村直勝の著作からその存在を知り、甲賀地方で忍者研究をする際には引用しないよう警戒していた

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