『誤作動する脳』(医学書院) – 著者: 樋口 直美 – 武田 砂鉄による書評

書評総合

『誤作動する脳』(医学書院) 著者:樋口 直美
自らを観察 「できる」を取り戻す
私たちは、体が、脳が、五感が衰えることを恐れる。やがて衰えていくという自覚を持ちつつ、衰えを先に延ばそうとする。できなくなったことが増えた人を見て、できることを保っている人が、自分はまだ恵まれていると感じる。その自覚はおおよそ暴力的だ。
私たちには、それぞれまったく違う「できない」と「できる」があります。そして「できない」から「しない」のではなく、自分の「できる」を使って、「できない」を違う形の「できる」に変えて生活を続けています。
本書を読んでもっとも大切にしたいと思った一文だ。「できる」「できない」は、共通概念ではない。本書の著者は、50歳でレビー小体型認知症と診断された。ある時、鰻(うなぎ)屋の店先で、嗅覚(きゅうかく)が失われたことに気づく。「次に何を失うのだろう」。映画館である映画を見ていた際、闇から光に出るシーンで「ギャッ!」と叫んだ。目が潰れるかと思うほどの衝撃を受け、「私の行動範囲は狭くなる一方なのか」と涙を流した。幻視や幻聴にも悩まされてきた。音楽を流しながら走る廃品回収車に脳が乗っ取られ、会話不能状態に陥る。起こっていない地震を感じ、布団のなかで床が傾いていると感じる。時間の遠近感、距離感も失われていく。あの時、今、これから、という感覚がない。自分と他者の間に「理解の橋」はかからず、「専門家の冷酷な解説」が、自分を社会から切り離そうとする。ある時から、体から失われていくものを損失と捉えるのをやめた。自分の体に起きた「異常」を「普通」に切り替えていく。「何でもない普通のことと考

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