『フリーダム』(早川書房) – 著者: ジョナサン フランゼン – 小野 正嗣による書評

書評総合

『フリーダム』(早川書房) 著者:ジョナサン フランゼン
壊れゆく家族で〈不自由さ〉描く
小説は何のために読まれるのか? 娯楽? 暇つぶし? 自分が主役の自由な世界をせっせと拡張すべく、スマホの画面の上を滑らせるのに忙しい指先には潰すだけの暇すらないのだから、現代のアメリカの地方都市に暮らす一家を描く800ページ近いこんな分厚い本は読んでられない?ウォルター・バーグランドはミネソタの田舎町出身。家が貧しかったため苦学を重ね、大学時代に出会い結婚した妻を愛する良き夫だ。アウトローのミュージシャンの親友を持つ一方で、生真面目で堅物な彼は、世の中をよりリベラルで公正な社会に変えたいというやや青臭い理想に忠実に自然保護協会で働いている。妻パティは対照的に、ニューヨーク州のリベラルなインテリの富裕家庭出身。バスケット部で活躍し、虚言癖の友人につきまとわれて困ったことはあるが、経済的な苦労は知らない。結婚後は家庭に入り、男女二人の子供を育てる専業主婦である。「朝日新聞」ならぬ「ニューヨーク・タイムズ」を読み、共和党ではなく民主党を支持する、典型的なリベラルな中産家庭。だが完璧に幸福な家庭など存在しない。子供が大学に行き親の手元を離れるあたりから、それまで蓋をしてきた問題が次々と噴出し、家族がギシギシきしみ壊れ始める。パティがだんだん鬱になっていくのは、溺愛する息子ジョーイが名門大に行ったあとも、隣家の庶民の娘と付き合っているからだけではないようだ。どうも夫の親友のミュージシャンのリチャードとのあいだに昔何かがあったようなのだ……。リチャードもまた皮肉なことに、

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