『いのちを刻む 〔鉛筆画の鬼才、木下晋自伝〕』(藤原書店) – 著者: 木下 晋,城島 徹 – 堀江 敏幸による書評

書評総合

『いのちを刻む 〔鉛筆画の鬼才、木下晋自伝〕』(藤原書店) 著者:木下 晋,城島 徹
孤独の闇の底、光持つ鉛筆画
絵描きは作品にすべてを込める。言いたいことも、あるいは言いたくないことも画面に託して、あとは観る者に任せる。タイトルも含め、一枚の絵にどのような意味があり、なにを表現したかったのかを言葉で説明すると、逆に絵の魅力が失せてしまうからだ。一方で、心打たれた絵について、なぜそのような画面ができあがったのか、作者の具体的な体験として語ってもらえたらと夢想することもある。木下晋(すすむ)の鉛筆画を見ていると、時々そんなふうに思う。幸い、自伝と銘打たれた本書によってその願いが叶えられた。「いのちを刻む」と題されているとおり、逸話ひとつひとつに十分な重さがある。しかし語り口は軽快で、過度な湿り気を帯びない。画家は、エピソードをひとつの角度からだけでなく、前後左右、ときには少し上から眺めている。どこからも焦点がきれいに合って話が立体的なのだ。この印象はサイズの大きな鉛筆画の画面とも合致している。木下晋は一九四七年、空襲で焼け野原となった富山市に生まれた。父親はとび職で、兄と弟がいた。三歳のときに火事で家を失い、竹林管理の番小屋で極貧生活を送る。母親は兄を連れて家出を繰り返し、母の不在中に二歳下の弟が餓死したという。母のぬくもりもやさしさも、家庭の団らんも知らずに育ったことが、のちの制作や生活態度に影響を与えたと画家は語っている。しかし、以後の木下の人生には、親代わりとなる人物や、画家への道を拓(ひら)き、境遇や身分に関係なく人間を見てくれる先達がつぎつぎに現れる。本書はある意味で

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