『四時過ぎの船』(新潮社) – 著者: 真人, 古川 – 星野 智幸による書評

書評総合

『四時過ぎの船』(新潮社) 著者:真人, 古川
生きとれば、やぜらしかことの、たくさんあるとぞ
もう古川真人に夢中である。こんな小説家を待っていた。デビュー後の最初の作品である『四時過ぎの船』も、期待に違わぬ小説だった(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2017年)。長崎の離島に一人で住む、認知症である高齢の吉川佐恵子が、忘れないようにメモを書いておいたノートを見て、「何もかもを思い出した」場面から始まる。そこには「今日ミノル、四時過ぎの船で着く」と書いてある。中学生の孫の稔が、一人で帰省してくるというのだ。佐恵子はこのメモを見ながら、娘の美穂と電話でそう話したことをぼんやり思い出す。しかし、時計を見たとたん、四時が近づいていることを発見して驚く。さっきまで時間を気にし続けていたのに、もう忘れていたのだ。そして時間のことに気を取られた瞬間に、稔が船で到着することを忘れてしまう。そしてまたメモが目に入り、思い出す。これら一連の忘れたり思い出したりの描写が素晴らしい。この数ページで読み手は、この作品世界に引き込まれていくだろう。デビュー作『縫わんばならん』でも冒頭から、離島で一人暮らしする高齢女性の、記憶や体の不自由の描写が続くが、今作はより簡潔にして印象的な場面としてレベルアップしており、驚いた。そう、この作品もデビュー作と同じ長崎の離島が舞台であり、同じ吉川一族の物語である。佐恵子は『縫わんばならん』の最終章で、その葬儀が稔の視点から描かれる。本作では、生前の佐恵子の内面と、その死後に家の整理に島へ帰省した稔たち母子の様子が、交互に叙述される。稔が祖母である佐恵

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