『不夜城』(角川文庫)、『鎮魂歌』(同左)、『M』(文藝春秋)、『雪月夜』(双葉社)ほか – 霜月 蒼による作家論/作家紹介

書評総合
馳星周
一九六五年、北海道生まれ。出版社勤務ののち、坂東齢人名義で書評家として活動、一九九六年の長篇『不夜城』で作家デビュー。同書は発表と同時に高い評価をうけ、吉川英治文学新人賞を受賞する。つづく『鎮魂歌』で日本推理作家協会賞、『漂流街』で大藪春彦賞を受賞するなど、いまもっとも注目されるミステリ作家であり、また国産現代ノワールのほぼ唯一の作家といえるだろう(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2000年)。一九九〇年代末のわが国での「ノワール」隆盛の気運は、『不夜城』による馳星周のデビューに象徴され、馳星周の作家活動それ自体によって要約できると言っていいだろう。そもそも日本で唯一、現代ノワールを自覚的に書いている作家が、馳星周であるからだ。この作品を生んだのは、馳星周が抱いていた「ハードボイルド」に対する違和感だった。書評家時代の馳星周は、いわゆる「正統的なハードボイルド」――私立探偵が「観察者」という安全圏に身をおき、抽象的な「正義」の旗印のもとに犯罪者を断罪する物語――に切実さを感じられなくなった、と書いている。むしろ、登場人物が苛酷でシニカルな運命のなかでもがき苦しむ物語を評価したいと。そうした意識のもとに生まれた『不夜城』は、まず表面的にはアンドリュー・ヴァクスの影響が見られる作品である。一人称「おれ」、現代都市の下腹を舞台としていること、さらには短い断章を積み重ねてゆく構成。だが大きくちがうのが、ヴァクスのバーク・シリーズが、汚濁とリアリズムを身にまといながらも、なお「正義の担い手」であり「ヒロイズム」を匂わせるのに対し、『不夜城』の主人公・劉健一は、正義

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