『泉鏡花集成〈1〉』(筑摩書房) – 著者: 泉 鏡花 – 種村 季弘による解説

書評総合

『泉鏡花集成〈1〉』(筑摩書房) 著者:泉 鏡花
読みたくなる鏡花
泉鏡花はその名のほどにはよまれていない作家ではないかと思うことがある。鏡花作品といえば、比較的初期の『照葉狂言』、『薬草取』、『高野聖』、あるいは中期の『春昼』や『草迷宮』、戯曲なら『天守物語』、後は晩年の『縷紅新草』あたりの名を挙げるか、それとも新派のレパートリーとしてかならずしも鏡花自身の脚色によらない『婦系図』や『日本橋』の舞台を思い浮かべるのが、平均的反応ではなかろうか。高名な作家であるわりに手軽に読めるテクストがすくなかったということもある。岩波版鏡花全集は別格として、手近にテクストを入手しようとすれば、まず戦前円本時代の改造社版日本文学全集や春陽堂版明治大正文学全集の「泉鏡花」の巻を古本屋で探すというのが、すくなくとも昭和初年生まれの私などの世代のほぼ戦後五十年間の共通体験だったのではないかと思う。一九六〇年代末頃から鏡花再評価の機運がきざしたものの、実際に手軽に読めるテクストとなると、めぼしいところでは寺田透・村松定孝編「鏡花小説・戯曲選」(岩波書店)のようやくここ十年ばかりの間の刊行が思い当たるくらいである。文庫本では川村二郎編などによる岩波文庫が数点。これだけ文庫ばやりの出版界に、鏡花の文庫全集とはいわぬまでも、主要作品を網羅した文庫集成がないのは不釣合ではないのか。まずは読書現場にいる人間としてのそんな欲求が筆者の側にあったところへ、筑摩書房編集部から声がかかったのがもう七年ばかり過ぎ、一昨年秋には刊行にこぎ着けたが、読者の評判が上々とかで、当初予定の短篇中心の十巻本集成にさらに長篇四作の

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