『黒川能 1964年、黒川村の記憶』(集英社) – 著者: 船曳 由美 – 中島 京子による書評

書評総合

『黒川能 1964年、黒川村の記憶』(集英社) 著者:船曳 由美
五輪の陰もう一つの奇跡
黒川能とは、山形県庄内地方、黒川村(現鶴岡市)に伝わる伝統芸能・神事で、500年余の歴史がある。旧暦の正月(2月1日と2日)に行われる王祇祭(おうぎさい)では、春日神社のご神体「王祇様」をそれぞれ上座、下座と呼ばれる2軒の「当屋(とうや)」に迎え、夜を徹して能と狂言が演じられる。能楽五流(観世、宝生、金春、金剛、喜多)とは異なり、役者も囃子(はやし)方も玄人の能楽師ではなく、春日神社の氏子が務めるのが特徴である。著者は、この神事能に初めて写真家を伴い、詳細にその記録を残した、雑誌『太陽』の編集者だった。1964年、日本中が「オリンピック」で舞い上がっていたころ、もっと違う、土地に根づいた「祭典」を見たいと願っていた著者は、黒川能を詠った真壁仁の一篇の詩に導かれて村を訪ねる。64年から65年にかけて行われた取材は、『太陽』66年2月号の「雪国の秘事能」に結実するのだが、本書は、その記事作成のいわば裏話であり、誌面では書ききれなかった神事の詳細であり、村人たちの息遣いの記録である。若き日の著者は、真壁仁の紹介状を携え、おずおずと黒川村に足を踏み入れるのだが、そこで出会うのは、「神事」という漢字から受け取る厳(いか)めしさが、のっけから覆されるほどの、振る舞い酒の量である。村人に「里帰り」と冷やかされるほど村に通いつめ、泊めてもらっている家の娘のように「権治郎(ゴンジロー)家の姉(アネ)ちゃ」と呼ばれるまでになった著者が描こうとしたのは、その神事がいかに長い伝統を持ち、丁寧に継承された厳かなも

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