『星月夜』(文藝春秋) – 著者: 伊集院 静 – 逢坂 剛による書評

書評総合

『星月夜』(文藝春秋) 著者:伊集院 静
人間の心の奥にひそむ闇を照射
本作品は、著者初のミステリーとして、小説雑誌〈オール読物〉に昨2011年の1月号から9月号まで連載された(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2012年)。ただし、4月号が休載になっているのは、仙台在住の著者が大震災に遭遇したため、と思われる。そのおりの体験や、近年培われた著者の絵画への関心が、ここに色濃く反映されている。本書は、一応、警察小説の体裁をとるものの、並のミステリーでは終わらない。東京・浅草の浅草寺境内にある派出所に設けられた、行方不明者相談所に1人の老人が現れて、物語の幕があく。上京したまま消息を絶った孫娘を捜してもらいたい、というのである。一方、島根県出雲市に住む人妻の滝坂由紀子は妊娠した体をいたわりつつ、行方をくらました鍛冶(かじ)職人の祖父の消息を求めて奥出雲の三刀屋へ向かう。さらに話は転じて、ある人物の若かりし日のエピソードが、間奏曲のように一つの伏線として挿入される。こうした、一見なんの脈絡もない導入部をへて、東京湾に身元不明の男女の死体があがり、にわかに物語が躍動し始める。著者は、あっと驚くトリックや意外な犯人の設定といったミステリーの決まりごとに、いっさいこだわらない。そのかわり、人間の心の奥にひそむ闇を、さまざまな人物の視点から照射していく。警察捜査も、それなりに綿密に描かれているが、著者の関心は事件の解決よりむしろ、そこに収斂(しゅうれん)されていく多彩な登場人物の心理のうねりに向けられる。キャラクターの造形もみごとだ。ことに、過去の犯罪の解決に執念を燃やす、石

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