『わが悲しき娼婦たちの思い出』(新潮社) – 著者: ガブリエル・ガルシア=マルケス – 野谷 文昭による書評

書評総合

『わが悲しき娼婦たちの思い出』(新潮社) 著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス
生の讃歌として語られる、恋する老人のエロチカ。
ガルシア=マルケスはその自伝で、あたかも過去の快楽を味わいなおすかのように自らの性的武勇伝を臆面もなく披露している。実際、カリブの男たちは年齢を問わず猥談を好み、性的能力を誇ったり手柄を語ることで、この地域特有の巨根神話(マチスモ)を再生産し続ける。彼の新作もまずは同胞に聞かせる自慢話なのだろう。その意味で、川端康成の『眠れる美女』をモチーフにしたというのは、エロチカの世界を描くための口実にすぎないとも言える。川端の耽美的世界とは異なり、老人の性=生のあからさまな讃歌になっているからだ。だが主人公で語り手の老人は、老いてなお少年のように「恋わずらい」にかかる。90歳の誕生日を迎える記念に娼家で調達した処女(エレンディラと同じ14歳)に恋してしまうのだ。このメロドラマ的切なさを描くことで作者は国と世代を越えて読者の心をつかむのだろう。老いや恋についての卓抜な警句とともに、ときおり垣問見える彼の伝記的要素も興味深い。新聞記者時代の逸話などが隠し味としてリアリティを補強する。ところで著者の小説には決まって日陰の女性が出てくる。若い頃から主のために下働きとして、また性のはけ口として仕えてきたダミアーナが、彼への思慕を告白する場面で胸が詰まりそうになった。彼女こそまさしく「悲しき娼婦」ではないか。主人公の「光り輝く」再生は実は彼女の献身に支えられていたのだ。だが恋は盲目、老人の関心は、眠りながら成熟する少女にしかないようだ。【初出メディア】フィガロジャポン 2

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