『ブロッケン山の妖魔―久野豊彦傑作選』(工作舎) – 著者: 久野 豊彦 – 豊崎 由美による書評

書評総合

『ブロッケン山の妖魔―久野豊彦傑作選』(工作舎) 著者:久野 豊彦
霧と光の作用で山頂に現れる大きな人影――ブロッケン山の大入道としてよく知られる現象をモチーフにしたエロティックな幻想譚が、久野豊彦傑作選の表題作だ。ブロッケン山の妖魔の正体を見届けるため、黒人の彼氏を伴って入山したきり戻らない美女スプリシオ。心配した「僕」は彼女の母親一行につきそって山頂を目指す。そこで彼が見たものはスプリシオの巨大な影。
彼女の耳は、世界のクエスチョン・マアクである。彼女の鼻の穴は、瓦斯(ガス)タンクである。彼女の顔の輪郭は、三角形の大破片である。彼女の乳房は無限の円のなかの紅い一点の太陽である。彼女のオルガンは、汽船から黒煙を吐きだしている。
やがて、やはり大入道と化した彼氏の〈怪腕が、濃霧のなかを潜って、彼女の背後の方へ廻ってゆくと、自然に巨大な痴情の活劇が、霧の人間によって始まり〉だす。空に映し出される巨人サイズのポルノ映画。エロティックなんだけれど、どこか可笑しみもともなうこのくだりの描写が絶品だ。あるいは〈シャッポで男をふせた女の話〉の荒唐無稽さはどうだろう。大連の街角で〈薔薇の花の香水を泳いできた外套の女〉と出逢う〈私〉。誘われるまま家までついて行った〈私〉に、〈魚花娘〉と名乗る女は自分の生い立ちを語りだす。〈――日露戦争とロシアの革命がなかったなら、今頃、妾はどうしているでしょうか。父のおかげで、妾は屹度(きっと)、トントン拍子に女実業家となり、東洋の舞台を切りまわしたそのあとで、今度は宗旨をかえて女角夫になっていた筈なのです。〉なぜ女角夫? わからない(笑)。しかも、この奇天

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