『明治百話』(岩波書店) – 著者: 篠田 鉱造 – 森 まゆみによる解説

書評総合

『明治百話』(岩波書店) 著者:篠田 鉱造
聞き書きの神様
十二年ほど、古老の聞き書きをやっている。いまでは八十、九十歳でも若々しく、“老”をつけて呼ばれるのを嫌がる人も多いが、老人というのは、さまざまな世を見、浮き沈みにあって、人格も鍛えられ、知恵もついた人のことである。いわば人生の先輩、心からの尊敬をもって、“老人”という風格ある言葉を用いたいと思う。聞き書きとは、町をあちこちかけめぐり、人の話を聞いて、記事に起こすのであるから、傍目にはよほど大変の所業と思われそうだが、大変はその通りながら、始めれば必ずやみつきになるような楽しい仕事である。
幕末から維新へかけての古老の話は奇抜で、珍妙で、想像もつかない面白いことずくめであった。世の中がコセコセせず、悠暢であった。
と著者篠田鉱造は、『明治百話』(岩波文庫)に先立つ『幕末百話』(昭和四年、万里閣書房版)の復刊の序に書いている。彼は明治三十五年、報知新聞の記者をしていたころ、こうした幕末維新期の実話を集め出し「夏の夜ばなし」として連載した。安政の大地震、桜田門事件、薩摩屋敷の焼討ち、上野の彰義隊、廃刀から丸腰、士族の商法などを見聞きした人がそのころは、まだ大ぜいいた。東京生れの著者も、周囲からそのような話を聞かされて育ったにちがいないが、子どもにはそんな昔話は耳タコだったろう。
祖父母逝き、父母老いて、そうした話が繰返されなくなってから、俄かにその話が聞きたくなった。(『幕末百話』)
そんなものである。運の良いことに、篠田が聞き書きを始めたときは、幕末維新の実話が聞けるラスト

リンク元

コメント

タイトルとURLをコピーしました