『人とことば: 人物叢書別冊』(吉川弘文館) – 著者: 日本歴史学会 – 本郷 和人による書評

書評総合

『人とことば: 人物叢書別冊』(吉川弘文館) 著者:日本歴史学会
まことしやかな伝説の真偽がここに明らかに
豊臣秀吉の軍師であった黒田官兵衛は、死に臨んで子息の長政を呼び、草履の片方と下駄(木履(ぼくり))の片方を渡して言い残した。長政よ、この品の意味が分かるか。お前は何ごとも熟慮する。だが、人生のうちには、片足に草履、片足に下駄を履いて駆け出さねばならぬことがある。チャンスを逃してはならぬ――。これが「草履片々(ぞうりかたがた)、木履片々(ぼくりかたがた)」という小話で、なるほどよくできている。本能寺の変後、秀吉は取るものも取りあえず「中国大返し」を敢行し、明智光秀を討ち、天下人へ駆け上った。それを支えたのが官兵衛だったとなれば、説得力も抜群だ。官兵衛を主人公にした大河ドラマが放映されたとき、この話はしばしば取り上げられた。あるとき、ぼくは何の気なしに、この話の典拠を調べた。官兵衛の逸話は福岡藩の『黒田家譜』に収録されていることが多いが――、ない。では後世の逸話集か。違う。では、なんだ。散々探した揚げ句、やっと福岡の民話集の中に似た話を見つけた。なんと、民話か。官兵衛は何の関係もないじゃないか。偉人の教訓、のような書き物はたくさんあるが、その多くは典拠を記さない。本当にその言葉が史実かどうかが、確かめられない。先人の言葉は生きているからこそ、私たちに感銘を与える。フィクションは大いに認めるが、この手の記事でそれをやっては、台無しではないか。そう感じていたところに、本書の完成を知った。日本史上でよく知られる人の肉声が、典拠とともに紹介され、しっかりとした解説が付される。書き手

リンク元

コメント

タイトルとURLをコピーしました