『ものがたり日本音楽史』(岩波書店) – 著者: 徳丸 吉彦 – 村上 陽一郎による書評

書評総合

『ものがたり日本音楽史』(岩波書店) 著者:徳丸 吉彦
「組織づけた音響」の壮大な俯瞰図
最初に幾つかお断りを述べねばなるまい。「ジュニア」向け、しかも「新書」という本書の体裁がもたらすかもしれない誤解についてである。例えば、本書は、要するに対価さえ払えば簡単にやり取りできる情報が、「判り易い」表現で書かれているだけの書物ではないか。あるいは、邦楽の専門家が、閉ざされた日本の伝統音楽の世界を、趣味的に語っているのではないか。どちらも決定的な誤りである。著者は西洋音楽の歴史にも立ち向かってきた研究者であると同時に、世界中の「音楽」(という概念を最も広く解釈して)を、寛容な目で眺め、収集し、理解しようとしてきた稀有な研究者である。余計なことかもしれないが、著者はピアノもヴァイオリンも三弦もよく演奏し、夫人は現在も第一線で活躍中の名ピアニストである。そうした背景の下で、「音楽」に対する限りない、広い愛情と、真摯な向き合い方が、日本音楽を相手に、壮大な俯瞰図として、一見乾いた筆致で、しかし熱く語られる、良質の書物である。前置きが長くなった。最初の一ページ、すでにそこで大切なこと、つまり著者の音楽に関する簡にして要を得た定義が登場する。「人間が組織づけた音響」、これである。おそらく最も広く考えられた音楽の概念だが、こう定められてみると、人類の誕生とともに、豊かな文化的資産として音楽があったことが自然に納得させられる。そこで、日本の音楽史も、人類史の中でも稀に安定した先史時代である縄文から始まることになる。縄文時代の「土鈴(どれい)」や「石笛(いわぶえ)」などを経て、弥生、大和朝廷へと進

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