『綺譚集』(東京創元社) – 著者: 津原泰水 – 豊崎 由美による書評

書評総合

『綺譚集』(東京創元社) 著者:津原泰水
小説家は太陽の想像力と月の想像力の持ち主に分けられる。津原泰水。少年少女向けのライトノベルから筆業を興し、その後『蘆屋家の崩壊』などの作品で一部のミステリーファンに認知され、『ペニス』という大傑作を上梓した二〇〇一年、すべての読書人の賞賛を一身に受けるはずだったのに、不勉強な純文学リーグの批評家たちが“発見”できなかったせいで、いまだ人口に檜灸(かいしゃ)するには至っていないマイナーポエティックのこの作家の想像力は、あきらかに夜の側に属している。神経を患う〈私〉が遭遇する、少女の交通事故死の顚末を記した「天使解体」。学校の怪談風の一編「夜のジャミラ」。画家・村山槐多の生涯に昏(くら)い空想をまとわせた「赤假面傳」。殺された女の死後の意識と記憶をたどった「玄い森の底から」。(『ペニス』の中でも重要なエピソードとして採用されている)公園で兎を飼っている老人たちと、彼らに愛犬を殺された青年の戦いを描いた「聖戦の記録」。ゴッホ最晩年の作品『ドービニィの庭』の再現に魅せられ、庭にとり憑かれる男たちの狂気を描いた「ドービニィの庭で」など、十五編を収録。文体に対する美意識の高さ、物語が求める「声」を聞き分ける感度のよい耳、夜の静寂の中から幻想を拾い上げる繊細な感覚、「くくく」とか「ひひひ」といった口の端から洩れる笑いが似合う歪んだユーモアセンス。どの作品をとっても、そうした津原泰水の印がしっかりと刻まれている。十五通りの綺譚をそれぞれ異なる文体で語り起こしたこの贅沢な短編集は、津原泰水の魅力を知るに最適な一冊なのである。暇を

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