『マリッジ・プロット』(早川書房) – 著者: ジェフリー・ユージェニデス – 小野 正嗣による書評

書評総合

『マリッジ・プロット』(早川書房) 著者:ジェフリー・ユージェニデス
不安定で傷つきやすい若者たち
一見スノッブな小説だ。主人公たちはアメリカ東海岸の名門ブラウン大学の学生である。主人公の文学少女マデリン、大柄で才気煥発(さいきかんぱつ)の皮肉屋レナード、思慮深く内気なミッチェルの3人の恋愛を軸に、80年代初頭のアメリカに生きる若者たちの心象風景が端正に描かれている。 マデリンとレナードが出会うのは、フランス現代思想のゼミである。だが〈進歩〉や〈人間〉などの〈大きな物語〉は死んだと宣言し、あらゆる既存の秩序に対する疑義を提示したこの知の〈潮流=流行〉に感化された若者たちが、人生という〈物語〉、つまり〈学校〉〈家族〉〈結婚〉〈信仰〉といった既成の価値観にとことん縛られて右往左往する姿はとても他人事(ひとごと)には思えない。結局マデリンが愛読するのは、マリッジ・プロット、あえて言えば〈婚活〉を主題とした19世紀のイギリス小説なのだ。 そうした古典的恋愛小説さながら、本作では人物たちが細部に至るまできっちり書き込まれている。大学学長の父と教養のある母を持つマデリン。他方、レナードとミッチェルは地方出身で、前者の家庭は崩壊し、後者の両親は勤勉を尊ぶ普通の人たちだ。全く異なる社会背景を持つ3人が惹(ひ)かれあい反発しあう様子は読みごたえがある。 超一流の研究所に採用されたもののレナードはひどい躁鬱(そううつ)に苦しみ、〈魂〉の問題に深い関心を寄せるミッチェルは旅に出て、インドのマザー・テレサのもとでボランティアとして働く。さあマデリンはどちらを選ぶでしょう? ある時代の、ある一定の階層

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