『職業別 パリ風俗』(白水社) – 著者: 鹿島 茂 – 鹿島 茂による前書き

書評総合

『職業別 パリ風俗』(白水社) 著者:鹿島 茂
フランス文学に初めて接したとき、その実態がよく掴めない職業・身分がいくつかあることに気づいた。たとえば代訴人、復習教師、高級娼婦。これらは日本には存在しないため、たとえ説明されたとしてもイメージがみにくい。また、公証人、免許医、年金生活者、乳母といった職業は日本にも近似的な職業・身分が存在する(あるいは存在した)が、日本のそれとは微妙に違っているように感じた。ただ別にこれらの職業のことがわからなくても、ストーリー自体を追うことは可能で、違和感や疑問は宙づりにしたまま小説を読み進めることはできる。普通の読者なら、これでいいかもしれない。しかし、フランス語の語学教師になって学生相手に『ペール・ゴリオ』や『レ・ミゼラブル』の訳読を試みる段になると、そうはいかなくなったのである。「代訴人と弁護士はどう違うんですか?」「高級娼婦というからには低級娼婦というものがあるんですか?」「ゴリオ爺さんは年金生活者って訳されていますけど、その年金っていうのは日本の自営業者の国民年金みたいなものなんですか?」こういう質問を受けたとき、あるいはそうした種の質問を想定してテクストの予習を進めているとき、自分はフランスの社会について何も知らないし、またそれと深く関係している各種の職業にまったく無知であるとあらためて気づいた。そう、わかっているつもりになっていたが、その実、何一つ正確なことは知らなかったのである。かくてはならじと職業について調べ始めたが、やがて一つの真実が明らかになった。あたりまえのことだが、職業は金銭と深く結びつき、社会そのものと密接な関係に

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