『プリズンの満月』(新潮社) – 著者: 吉村 昭 – 猪瀬 直樹による書評

書評総合

『プリズンの満月』(新潮社) 著者:吉村 昭
戦犯の悲劇、静かに見つめる
最終ページをめくりながら熱いものがこみあげてきた。巣鴨プリズンで絞首台を作らされた男が、のち離婚してなにやらわからぬ宗教団体の布教をしており、すっかり面変わりしてしまったエピソードが語られている。自分のつくった絞首台で戦犯が処刑されたのだから、拭えぬいまわしい記憶が溜まったままなのだ。とくにBC級戦犯の場合、組織の歯車のなかで、あるいは極限情況のなかでやむを得ず俘虜を殴打したり殺したりすることもあった。戦勝国が敗者を裁くとき、細かい事情は容赦されない。まったくの濡れ衣で絞首刑になったケースさえある。その悲劇を身近で見つめる立場にいるのは物語の語り手、看守たちである。……深夜、読了して本を閉じた瞬間、電話のベルが鳴った。記者が笹川良一死亡を伝え、コメントを求めてきた。あまりの偶然で、感慨はいっそう深い。笹川はA級戦犯だが不起訴処分とされ戦後政界のフィクサーとなり、九十六歳の長寿を全うした。その陰で、巣鴨プリズンでは若いBC級戦犯たちが死刑の恐怖に怯えていた事実が置き去りにされた。「戦争裁判で処刑された者は、外地でのそれを合わせると九百十一名に達し、巣鴨プリズンでも六十名が処刑され、十八名が獄死、二名が自殺していた」と本書に記されている。朝鮮戦争がはじまると巣鴨プリズンの戦犯の扱いが、少し緩む。調布の元陸軍飛行場跡地の農場で働くためトラックに乗せられ、巣鴨との間を往還した。道にそってバラックが建ち、リヤカーを引く人びとの姿を初めて眺めることができる。復興の様子がたしかめられ、慰め

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